ベールを脱いだ新作「タイムゾーン」の話を訊くことが主な理由であったが、その取材中に、A.ランゲ&ゾーネ創業175周年記念モデルの発売に関する発言がもたらされるという僥倖があり、そしてその時が迫った今、このインタヴューの封印が解かれることになった次第である。
『A.ランゲ&ゾーネの工房は今、 2つのチームにわけて働くようにしています。
ウイークAとウイークB という2つのチームに分けているので、生産量は通常の50%になっています。 チームAが月曜から金曜まで働いたら、週末に社内を完全にクリーニングして、次の週からチームBの人たちが働きます。 そしてデザイナーや設計士は、主に自宅からリモートで作業をしています。 」
――思いもかけないことに、この2020年は海外渡航が制限されるという状況が起きてしまっていますが、こういう年に「タイムゾーン」を発表するということに、躊躇する気持ちなどはありませんでしたか?
『確かに海外渡航は制限されているので、おっしゃる通りだと思いますが、それでも私たちは繋がっていますよね。
実際に、移動するということは困難になっていますが、でも世界中は繋がっているし、今もこうして私たちは会話しています。私にとってこの「タイムゾーン」がすごく便利なのは、いつ誰に、どこの国の人に電話してよいかを知ることができることです。日本人のみなさんを深夜にたたき起こすということをしなくて済みます。(笑)
旅行や移動はできないですけど、時計の開発および発売のロードマップは、今回のコロナが騒ぎになるずっと何年も前から描かれています。
もちろん、今年は新作を出さないという決断もできたかもしれないですけど、でも、私たちは繋がっているんだということを、まったく違う形で再認識できた今だからこそ、逆に「タイムゾーン」を発表した意味があるのではないかと思います。』
――新しい「タイムゾーン」を作るにあたって、もっともこだわった点というのはどこですか?
『ひとつは、デイナイト表示がサブ・ダイヤルにインティグレートされていることです。前のモデルは、メインの方よりもちょっと外れた位置にデイナイト表示があって、それが自分にとっては一番気になっていたので、この点を改善できたこと。
そしてふたつめは、タイムゾーンを出して15年が経つのですけど、ランゲ1ファミリーの中では唯一、昔のランゲ1のムーブメントをベースとして搭載されているモデルなので、今回は新しくするという、ある意味での必然性があったということです。』
――新型「タイムゾーン」は新しい「グランド ランゲ1」のキャリバーをベースとしたのですか?
『ベース・ムーブメントが何かという考え方は、私たちはまったくしていなくて、確かに脱進機とテンプが薄いので、「グランド ランゲ1」の思想を取り入れてはいます・・・。機能が盛り込まれると、やはりムーブが厚くなるので、フラットな薄いものを使うのがいいと思ったんです。 そこは「グランド ランゲ1」に倣っているんですけど、なにかこう…あれをベース・ムーブメントとしてタイムゾーンに取り入れたとか、そういうわけではないです。』
――今回はイエローゴールが限定ですが、そこには何か特別な理由はありますか?
『新しい試みです(笑)。 皆さんもご存知だと思うんですが、A.ランゲ&ゾーネは、「ランゲ1」でもほかのファミリーでも、新しい基幹モデルが出ると必ず3つのカラーで出すのが当たり前のことになっていますよね。イエロー・ゴールドと、ピンク・ゴールドと、白系ではホワイト・ゴールドかプラチナです。
でも、その中でもイエローゴールドは、あまり人気がなかったんですよ。たとえば、ひとつのファミリーで3色あったら、ヨーロッパでもアメリカでもイエロー・ゴールドはあまり売れない。営業から『YGは要らないよ』って言われてしまうくらいだった。でもやっぱり、製造する側からすると、これまでの伝統を重視するというのはA.ランゲ&ゾーネの姿勢として大切なこと、大事なことなので、販売数は少ないかもしれないけど、イエローゴールドは絶対に作りたいという想いがありました。
なので、"じゃあもうYGは限定にして、最初に作ったものが出たら終わりということにすればいいのでは"と、限定になりました。』